学生の就活体験

就活の鍵は
「願い」を見出すこと!

もう20年以上前のことです。大学の授業の際に「会社に勤めていた時に、新人の採用もやっていた」ことを言ったら、授業後に学生の一人から「ES(エントリーシート)を書くのを手伝ってください」と言われ、その後、その学生に1年間を通してかかわることになりました。

彼女はCA(客室乗務員)になりたかったのですが、当時航空業界は不況で、CAは何年も採用していませんでした。現在地から目的地までは、遙かかなたというイメージがありました。

当初、就活をサポートするにおいて大切なことは「落ち込んだ気持ちをいかに早く持ち上げること」なのかなと思っていました。しかし、それはまったく違っていました。1年間、学生の就活に同伴して、私が学生から教えてもらった就活の鍵は「願いを見出す」ということだったのです。

心の奥から出てきた
「願い」は、
爆発的なエネルギーを持つ

就活を始めて約1年経ったある日、彼女がポツンと言いました。「結局、私がやりたかったことは、人を喜ばせることだった。それをCAという仕事でやってみたかった。CAをやらせてもらえるなら最初の1年間はおトイレの掃除だけでもいい」。心の奥底にあった「願い」にコツンと触れた感じでした。

その後、面接では何を言っても通っていきました。ある時、飛行機の中での面接がありました。試験官が「この飛行機は○○方面に飛んでいます。これから島に行きます。あなたは、どこの島に行きたいですか?」と質問をしました。彼女は「私、地理苦手なんだよな」と思いながら、ある地名を答えました。すると「そこは島ではありません!」と試験官から言われました。しかし、次の面接へと扉は開いていきました。

面接に行く道すがら、彼女は他の志願者から声をかけられました。「あの~。ストッキングが伝線しているですけど・・・」。「どうしよう。今日は日曜日でこの辺りのお店はお休みだ」と思った次の瞬間、その志願者から「私、予備を持っているのでよかったらお使いください」と言われました。

彼女の「願い」のエネルギーは、他の志願者をライバルではなく、協力者に変えてしまったかのように思われました。そして、約300倍の倍率を超えてCAになり、その後、20年以上が経過し、2児の母となった今も「人を喜ばせること」を願いとして国内外の空を飛んでいます。

気持ちの沸騰

上記の学生との出会いから約10年程経った時、友人の紹介で理工科系の大学院生の就活に関わる機会がありました。私が会社に勤めていた際に採用の責任者を務めていたことから、「模擬面接をやってくれないか」と頼まれました。

最初に彼に出会った時の印象は、「合格率8%」という感じでした。「どうしてもここに入りたい。そして○○をやりたい」という強い意志を感じることが出来ませんでした。私は、「あいまいな気持ちで来る人を採用する会社はない」と彼に少し厳しく伝えました。

次に出会った時には、彼の気持ちはなかり整理されていました。会社に提出したエントリーシートに書いた内容や、自分の気持ちを整理したものを用意してきました。彼は、これまでにない新型の飛行機を作る夢を持っていました。今度は、「合格率50%」という印象でした。良いような気もしました。同席した友人も、「これくらいでいいんじゃないか」と言いました。しかし、少し休憩をして解散する直前に「彼の意識は、まだお湯の状態だ。沸騰しなければダメだ!」と思いました。

お湯の状態から沸騰状態になるには、意識の覚醒が必要です。簡単になれるものではありません。しかし、これまで彼が「気持ちを掘り下げること」にエネルギーを注いできたことや、その場の真剣な空気、そして、これまでに受けた会社はことごとく落ちてもう後がないという「切羽詰まった状態」であった等の条件が重なってか、その後、わずか1時間半で彼の気持ちは沸騰しました。「これで面接官が彼を落としたら、(私が上司だったら)お前はいったい人間の何を見ているのか」と言いたくなる程、彼の気持ちは純化し、エネルギーに満ちあふれていました。しかし、3日後の最終面接の日まで彼の沸騰した気持ちが持続できるかどうかはわかりませんでした。

面接の直後、友人から電話が来ました。「結果が出ると、その結果により、有頂天になっていたり、落ち込んでいたりと気持ちも左右されるので、結果が出る前に、面接の振り返りをやろう」と言われました。そして、面接の結果が出る前に3人で、再び会うことになりました。

振り返りの場で、彼は言いました。「自分は今まで26年間生きてきて、これだけすがすがしい気持ちになったことはないです。その会社でインターンシップさせてもらったことや面接官との出会いに対する感謝。これからの人生を自分がどう生きていきたいかの決意等、すべて言い切ることが出来ました。もう、受かっても、落ちてもどちらでも構いません」。
それから3日して、合格通知が彼に届きました。

私は、就活をしている学生のみなさんに、内定が取れたか、取れなかったで一喜一憂するのではなく、就活を通して自分自身を振り返る時間を持ち、「人生を貫く願い」を見出し、出来れば、「今まで生きてきて、これ程すがすがしい気持ちになったことはない」という体験をしてもらいたいと強く願います。

それを目指して、学生を支える場として松本塾を立ち上げることにしました。